不法投棄燃焼物の注水消火対策

岐阜市北部地区産業廃棄物不法投棄事案
特定支障除去等事業対策工事

名古屋支店 工事事務所
辻 圭三

はじめに

本工事は、産業廃棄物の中間処理および収集運搬業の(株)善商が、同社、関連会社などの敷地およびこれに隣接する山林に産業廃棄物を大量に堆積させ放置するとともに、覆土による隠蔽および不法投棄を繰り返した現地から生活環境保全上の支障となる廃棄物などを除去するものです。対象となる面積は約9ha、持ち込まれた廃棄物の量はボーリング調査などの結果から約75万m3と推定されています。

不法投棄発覚後の調査では、埋め立てられた廃棄物から有害物質は確認されませんでしたが、詳細調査で設置したボーリング孔口から白煙の発生が確認されました。その後約1年半経過した時点で調査を行った結果、約560℃の温度と、発生しているガスから170ng-TEQ/Nm3のダイオキシン類が観測されました。

現地の航空写真を写真-1に示しています。ピンク色で示しているのが2007年3月の地中温度データを基に推定した燃焼範囲、赤色で示して いるのが2009年6月の地中温度データを基に推定した燃焼範囲です。また、写真-2に示すように現地はもともとは黒の点線のような沢筋の地形でしたが、不法投棄により赤でハッチングしてあるような状態になっていました。

本稿では、廃棄物中の燃焼範囲の注水消火対策工事を紹介します。

※ダイオキシン類の環境基準値 大気 0.6pg-TEQ/m3以下(1ng=1000pg)

消火方法の検討

消火対策工事を実施するにあたり、図-1のフローに示すように、まず、熱源解析と試験消火により消火方法を決定しました。

(1)熱源解析(燃焼範囲と消火範囲の特定)

消火対策工および消火試験工の実施に先立ち、燃焼範囲および温度を把握するために、平面方向に25m間隔、深度方向に2m間隔に設置した地中温度観測孔の熱電対のデータに基づき熱源解析を実施しました。結果は図-2、3に示すように100℃以上の熱源が四カ所確認され、消火対象範囲は地中温度70℃以上の区域としました。

(2)試験消火

注水消火での消火間隔や注水消火量などの施工方法を決定するため、試験消火を実施しました。

試験方法

試験消火は70℃以上の区域に設置した地中温度観測孔の周囲で注水位置、注水量、注水本数の違う3パターン実施しました。

試験結果

この試験から、いずれの注水パターンにおいても、すべての観測孔で温度低下が見られ、注水前には80℃程度あった孔内温度が、注水後には30~50℃程温度低下しており、確実に温度低下の傾向にありました。

消火孔の配置

上記の結果から消火孔の配置を2.0m間隔の千鳥配置としました。

消火の判断

設置してある温度観測孔により、常に温度モニタリングを実施し、消火の判断を行いました。
消火孔1本ごとに、削孔完了1時間後の孔底温度を測定して、70℃以下となっていれば注水作業を終了しました。

消火対策工事

消火対策工事は、消火対象範囲の低温部から水を注水する方法で行い、それを補助する目的で熱源の下部から水蒸気を注入しました。概要図を図-4に、フロー図を図-5に示します。

(1)水蒸気注入(補助消火)

注水消火を補助するために、水蒸気を注入した結果、酸素濃度は、燃焼範囲全域にわたって10%を下回っており、この濃度では燃焼を継続することは難しいので、燃焼は沈静化したと判断しました。

 

(2)注水消火(本消火)

温度変化

注水消火は2009年8月から10月にかけて実施しました。
注水消火工の効果により、消火対象領域(温度70℃以上の領域)において消火したと判断できる60℃以下の温度まで下げることができました(図-6)。

おわりに

今後は、ダイオキシン類で汚染されている可能性がある不法投棄廃棄物を約3年にわたって掘削除去していく工事に移行します。現時点では沈静化している燃焼個所も、今後、嫌気性発酵や新たな空気の供給により、地中温度上昇や再燃焼が発生することが懸念されるため、掘削中は常時散水により掘削面を湿潤に保ちます。また、地中温度、ガスモニタリングを継続し、地中温度の上昇が確認されれば、再度注水消火を行うことも視野に入れて工事を実施していきます。

工事概要
工事名称 岐阜市北部地区産業廃棄物不法投棄事案特定支障除去等事業対策工事
工事場所 岐阜市椿洞1161番地
発注者

岐阜市

施工者 鴻池・内藤特定建設工事共同企業体
工期

平成20年12月11日~平成25年3月15日

工事内容 実施設計:一式 水処理対策工:一式 注水消火工:一式
掘削工:400,000m3(概算) 選別工:380,000m3(概算)
場内整備工:一式 その他付帯設備工:一式

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457号(2010年04月01日)