トンネル補助工法に動的グラウチング工法を適用

中部横断自動車道前沢トンネル工事  

名古屋支店 工事事務所
渡邊 俊哉/永田 常雄 

 

はじめに

中部横断自動車道は、山梨県中西部を南北に貫き、大雨で通行止めになることが多い富士川沿いの国道52号に代わる道路として、東名高速自動車道、新東名高速自動車道、中央自動車道および上信越自動車道を結ぶ高速自動車道です。
前沢トンネル工事は、中部横断自動車道のNEXCO中日本による整備区間のうち、吉原JCT~富沢IC間(静岡市清水区)に位置する工区延長L=832m、トンネル延長L=685m、土工量約118,000m3の工事です(写真-1)。
今回、当現場では、山岳トンネル工事の補助工法として採用される長尺先受け工に当社保有技術である「動的グラウチング工法」を適用して、注入圧力に脈動を加える試験施工を行いました。 

動的グラウチング工法とは

動的グラウチング工法とは、注入圧力に5~10Hz程度の脈動を与えることによりグラウト材の見かけ粘度を低下させ、目詰まりを抑制して、グラウトの流動性・浸透性の向上を図る岩盤注入工法です。これまでは、ダムの基礎処理などに用いられてきました。動的グラウチング工法による目詰まり抑制効果の概念を図-1に示します。 

試験施工の概要

○セメント系注入材の課題に着目
長尺先受け工では、まずトンネル切羽外周の地山に鋼管を打設します。次に鋼管を通して改良材を注入し、地山を安定させます。
注入材にはセメント系とウレタン系があり、比較的安価なセメント系が採用されるケースも少なくありません。
しかしながら、セメント系の注入材は物性的に粒子を有するため、岩盤の微細な亀裂に浸透しにくいという課題があります。
そこで、当社保有技術の動的グラウチング工法を長尺先受け工に応用できるよう検討し、凝固するまでの時間(ゲルタイム)が短い1.5ショットタイプの注入材に対応可能な注入システムを考案し、現場に適用しました。 

○長尺先受け用動的グラウチングシステム
動的グラウチング工法では、圧送経路内にグラウトパルサーと呼ばれる脈動発生装置を組み込み、ダンプナー内のゴムチューブをグラウトパルサーのピストンで高速開閉させ、注入材に5~10Hzの脈動を加えます。混合前のA液(急硬剤など)とB液(超微粒子セメントなど)の脈動を同期化することで混合による減衰を抑え、ゲルタイムが短い注入材でも鋼管先端まで脈動が伝わるようにしました(図-2)。
事前に行った予備試験の結果、2液を合流させて注入する場合においても、鋼管先端まで圧力振動を伝達できることが確認されました(写真-2)。
 

○鋼管と注入材
鋼管には小口径長尺鋼管(φ89.1mm、t=5.5mm、L=13.5m)を使用し、鋼管口元から約1mの位置にバルクヘッドを形成することにより、リークを防止しました。
注入材は24時間養生後で2N/m2以上の圧縮強度を発現し、水温に合わせてゲルタイムを10分程度に調整できるようにしました(表-1)。
 

○試験施工結果と考察
写真-3に現場での試験施工の状況を示します。トンネルの切羽に打ち込んだ鋼管から、黄色と赤に着色した注入材を従来工法の静的注入と動的グラウチング工法でそれぞれ注入し、固化体の分布の比較により効果の確認を行いました(図-3)。
 

動的グラウチング工法における脈動の振動数は7Hz、規定注入圧力は2.0MPa、圧力振幅は±0.5MPa、注入速度は20L/分に設定しました。1本当たりの計画注入量は562L/本とし、圧力が上昇しない場合(初期圧+0.5MPa以下)は、計画注入量の2倍を上限として注入を行いました。
写真-4に注入完了直後の状況を示します。動的グラウチング工法を用いたNo.1孔とNo.3孔では、静的注入工法では見られなかった鏡吹付けコンクリートからの注入材の漏出が見られました。これは脈動による浸透性の向上により注入材が地山の微細な亀裂間に入り込み、さらに、目詰まり抑制効果を発揮した結果と考えられます。

 また、静的注入は打設深度6mまでの区間に偏在していたのに対し、動的グラウチングでは同11mまでの広範囲に脈状の固化体が分布し、地山改良効果が向上していることが確認されました(写真-5)。
 

おわりに

今回の試験施工を通じて、動的グラウチング工法がゲルタイム10分程度のセメント系注入材を使用する長尺先受け工にも適用可能であることを確認できました。
今後は、静的注入では注入が困難な地質での比較や、注入設備のコンパクト化、制御の簡素化などの改良を進めることで、山岳トンネルへの適用拡大が可能になると考えられます。 

 

 

工事概要
工事名称 中部横断自動車道前沢トンネル工事 
発注  中日本高速道路(株) 東京支社 
設計  中日本高速道路(株) 東京支社 ((株)建設技術研究所) 
管理 中日本高速道路(株) 東京支社 清水工事事務所 
施工 (株)鴻池組・東鉄工業(株)特定建設工事共同企業体 
工事場所 静岡県静岡市清水区高山~清水区土 
工期

平成23年4月~平成26年5月 

工事概要

工事延長  832m
トンネル工  トンネル延長:685m
                トンネル掘削延長:675m
                (掘削断面積 83m2 仕上り断面積 73m2
               インバートコンクリート:396m
道路土工  道路掘削:59,000m3
                トンネルズリ処理:59,000m3
構造物工  橋台:1基(深礎杭φ2.5m L=14m 4本)
工事用道路工  改良盛土:40,000m
                      仮設桟橋:幅員6~8m L=142m
                      仮設構台:504m2     

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471号(2013年10月01日)