アンダーピニング工法による住宅の復旧

県営住宅災害復旧工事  

東北支店 工事事務所 杉山 永久 

 

はじめに

福島県の県営住宅大坪団地は、18棟の住宅棟と1棟の集会所で構成されています。
このうち、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)において、2号棟・13号棟・16号棟の3棟では、既設PC杭頭部の著しい損傷による建物傾斜が確認されました。
 本工事は、これら3棟をアンダーピニング工法によって修復するものです(図-1)。 

 

被害状況

当該敷地は、昭和58年に団地が建設される以前は田畑でした。また、表層の構成が狭い範囲で急変する複雑な地層を呈しています。
支持層の深度においても木片等が確認され、礫層とシルト層が交互に層を成してます。
特に、数十年前に河川があったと思われる場所に位置する2棟(2号棟・13号棟)および16号棟は、既設杭の杭頭部の著しい損傷によって建物が傾斜し、沈下量の最大値は16号棟で300㎜、2・13号棟で100㎜程度でした。
建物傾斜は、杭全体の沈降による不同沈下ではなく、杭頭損傷によるもので、建物の形状を維持したまま全体的に傾斜した様子が確認されました(図-2)。
 

 

アンダーピニング工法概要 

アンダーピニング工法は、ジャッキアップにより建物傾斜を修正する工法です(図-3)。
 

 

工事の手順と留意点は以下の通りです。
○掘削深さの設定    
浅い場合は作業性が低下し、深い場合は埋め戻し土量や排土量が増加します。また、深い場合は掘削底から露出している鋼管長が長くなり、①ジャッキセット時に足場が必要、②ジャッキアップ時の安全性が低下、といった問題があります。当現場では基礎下より1,600㎜を根切り底としました(写真-1)。
○支持層の設定
新築とは異なり、途中に礫層が介在すると、鋼管杭の圧入が困難になります。したがって、鋼管杭が支持層以浅の礫層で高止まりした場合の対処についても事前に検討する必要がありました(写真-2)。
その結果、昭和58年に実施した地質調査から、特に2号棟はGL-4m付近に現れる礫層を支持層と判断することができました。また、柱状図からGL-4m付近から現れる支持層以深の土層は、圧密沈下や液状化の恐れが少ない土層と判断しました。
実際の工事では、以下の方法によって支持力の確認を実施しました。
a)設計軸荷重の3倍以上、かつ基礎の浮上りがスパン長の1/3000以下の範囲内で油圧ジャッキの最大荷重まで載荷(最大で180t)。
b)最大圧入荷重の載荷後、「最大圧入荷重⇔0荷重」を繰り返し載荷。また、最大圧入荷重の載荷時は、一定時間(15秒以上)保持。
c)繰り返し回数3回以上。
なお、比較的大型の玉石に起因する杭の高止まりについては、繰り返し載荷における0荷重時のリバウンド量の極端な増加や圧入時の軸芯ズレの状況で判断できますが、本工事においては、これらの現象は確認されませんでした。 
○敷地条件
a)山留めや掘削土の運搬等で建物四周に空地が必要。
b)5,000㎥の掘削土の一時ストックヤードが必要。
c)ジャッキアップ完了後、埋戻しは残土を流動化処理後圧送にて施工のため、流動化処理プラント設置場所の確保が必要。
○掘削中の安全対策
a)地震時の建物の水平移動を拘束するため、山留-建物間に切梁を設置。
b)建物外周から極力均等(ブロック分けの上、市松模様状)に掘削し、片側からの偏った掘削は不可。 

 

 

ジャッキアップ

鋼管杭打設完了後、杭頂部に機械式ジャッキを設置し、受け持つ重量分の荷重をかけます(プレロード)。
全ての各基礎、1~5本の杭グループ毎にワイヤー式計測器を設置し油圧をかけない軸(高い側の通芯)を決めます。16号棟の場合は長辺方向の南側、短辺方向 の西側としま した。まず沈下量が少ない長辺方向をジャッキアップし、次に短辺方向をジャッキアップします(図-4)。


油圧(各杭約50t)をすべての油圧ジャッキに均等にかけ、計測器の変位量をパソコンにて一括管理し、全体を水平にします。機械式ジャッキの有効ストロークは10㎝であるため、10㎝ジャッキアップ毎に頂部に調整材(H-100×100×6×8)2本を井桁状に挿入しました。
1階住戸内のレベルと建物四隅の建入れ確認を行い完了しました(写真-3)。 

写真-3 ジャッキアップの状況 

 

おわりに

東日本大震災より2年が経ちましたが、未だに不自由な生活を強いられている方もいます。当工法はクラッシュアンドビルド以外の住宅再建を進める方法として、工期の短縮や、コスト削減に貢献できる工法であり、被災地の復興に貢献できる技術と考えます。 

 

工事概要
工事名称 県営住宅災害復旧工事 
工事場所 福島県会津若松市門田町大字黒岩字大坪地内 
発注 福島県 会津若松建設事務所 
設計 (株) 綜企画設計
施工 (株)鴻池組
工期

平成24年7月31日~平成25年6月28日 

工事概要 ○2号棟および13号棟
 RC造,地上4階,建築面積188.98㎡,延床面積645.20㎡
○16号棟
 RC造,地上4階,建築面積583.45㎡,延床面積1887.16㎡

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470号(2013年07月01日)