山岳トンネルにおける新技術への取り組み

東北横断自動車道 二郷山(ふたごうやま)トンネル

東北支店 工事事務所
増田 丑太郎

 

はじめに

二郷山トンネルは、東北横断自動車道釜石秋田線のうち、国土交通省が直轄で整備する高速自動車国道として建設を進めている区間の遠野市に位置する延長311.0m、掘削断面102m2の扁平大断面の2車線道路トンネルです。
東日本大震災により、一部壊滅的な被害を受けた東北地方ですが、本格的な復興が始まり、二郷山トンネル工事もその一翼を担っています。
今回、当現場における作業環境改善、安全管理、品質向上に向けた取り組みとその効果について報告します。

 

ミストシャワーによる粉じん障害防止対策

トンネル坑内作業で重点取り組みの一つに挙げている「粉じん障害防止対策」として、トンネル切羽手前の上部から水を霧状にして下に吹きかける「ミストシャワー」を設置しました(写真-1)。
ミストシャワーは発破や掘削で発生する微細な浮遊粉じんを霧状の水に付着させて落とすシステムです。本システムでは、粉じん濃度により水量を変えることも可能です。
現場での粉じん量測定の結果からは5%の低減効果が確認され、作業員からは「実際に目のチカチカがなくなった」と好評でした。今後、じん肺防止の取り組み推進のために、水平展開を図っていきたいと考えています。

 

光る変位計による安全管理

坑口部のDⅢa区間やDI区間には、崖錐層や割れ目の開口した石灰岩が存在し、石灰岩特有の溶食された空洞が、風化物や流入土砂で満たされた状態で存在する可能性がありました。また、本トンネルは、扁平大断面(扁平率0.57、内空幅約15m)で上半断面積が大きく、鏡面の不安定化や突発的な切羽の崩壊が懸念されました。
そこで、トンネル掘削時の確実な安全管理を実施する目的で、計測結果見える化技術:OSV(On Site Visualization)のうち、光る変位計(写真-2、3)を設置しました。
光る変位計とは、簡易な構造により、「いつでも」、「どこでも」「だれでも」発生した変位量を光の色の変化で確認できるツールです。なお、6頁に計測結果見える化技術の紹介をしていますので、ご参照ください。
光る変位計の採用により、切羽や支保工設置部で変位が発生した場合には、リアルタイムで周辺の作業員に情報を開示し、危険度の判定を現場で作業に従事する作業員自身が判断できるため、作業時の安全性向上に役立ちました。

 

寒冷地に配慮した覆工コンクリートの養生技術

セントルバルーンの採用による養生技術は、従来から採用されている覆工用の型枠(セントル)をシートなどで覆って確実な密閉空間を構築し、脱枠前の温度の低下を防ぐ新しい養生技術です。
冬期の施工時には、最低気温が-10℃以下にもなり、覆工コンクリートの打設作業では、坑口部にシートなどによる遮蔽を行っても、ミキサー車などの往来時の開閉により、外気温の影響を受ける懸念がありました。セントルバルーンの採用により、一定の温度までジェットヒーターで加温することで、所定の時間(18h程度)における脱型が可能となりました。
初期強度管理において、覆工用セントルの脱型に必要な強度は、事前の構造解析で決定します。一方、若材齢時のコンクリートの圧縮強度は、テストピースによる圧縮試験を実施し、これらをもとに現地養生温度×時間による積算温度で管理しました。この結果、養生空間の適正な温度管理により、コンクリートの品質を確保できました。
覆工コンクリート脱型時の品質管理の効果としては、以下の事項が考えられます。
(1)脱型時のコンクリートの型枠への付着が、確実な強度の発現により低減できます。
(2)覆工コンクリートの初期強度の管理により、ひび割れに対する品質保証制度(完成から概ね5年後において、幅0.3mmを超えるひび割れがないこと)への対応が確実に行えます。
(3)確実な養生管理により品質確保および長期耐久性が確保されます。
 
 

覆工コンクリートの空洞発生防止技術

通常、天端部コンクリートの打設では、吹上げ方式によって検査窓や妻側から棒状バイブレータを使用して締固めるため、目視確認が難しく、締固め・充填不足が懸念されます。
本トンネルは扁平大断面であり、通常断面と比較すると覆工厚さが大きく、締固めに伴い発生するブリーディング水は、天端に残留しやすいという施工上の課題がありました。
本トンネルの覆工コンクリートの打設は吹き上げ方式で実施し、締固めは以下の手順にしたがって実施しました。
(1)アーチ肩部(天端部検査窓下)までは、検査窓から棒状バイブレータにより人力で十分な締固めを実施しました。
(2)天端部では1mピッチに4本設置した長尺引抜きバイブレータを一定の速度で締固めを行いながら、褄枠方向に引き抜くことにより実施しました。
覆工コンクリートの確実な締固めを行うためには、密充填後に長尺引抜きバイブレータによる締固めを行い、経年ひび割れの原因の一つとなる天端の空洞発生を確実に防止できました。
なお、本トンネルでは、万一の空洞発生にも対応できるように、覆工コンクリートの施工完了に合わせて電磁波レーダーによる空洞探査も実施しました。
 
 

まとめ

今回報告した施工管理における新技術の採用により、以下の効果を確認することができました。
(1)ミストシャワーの設置により、粉じん量を低減させることで、掘削時の作業環境が良化しました。
(2)光る変位計の設置により、早期に地山の挙動を把握することができ、切羽作業の安全性が向上しました。
(3)覆工コンクリートの初期強度不足によるひび割れ発生や締固め不足による天端空洞の発生を防止できました。
今後は、本トンネルにおける施工実績やノウハウを水平展開して、より良い品質のトンネルを構築できるよう努めていきたいと考えています。

 

工事概要
工事名称 東北横断自動車道 二郷山トンネル工事
発注 国土交通省 東北地方整備局
設計 国土交通省 東北地方整備局
 (セントラルコンサルタント(株))
管理 国土交通省 東北地方整備局 岩手河川国道事務所 北上国道出張所
施工 (株)鴻池組
工事場所 岩手県遠野市綾織町 地内
工期 平成24年3月~平成25年3月
工事概要

道路土工
 掘削工:14,730m
 路体盛土:55,000m
石・ブロック積 230m
坑門工 2基
トンネル工
 掘削:309.5m
 掘削断面:102m
 仕上り内空:84m
 覆工コンクリート:309.5m
 インバートコンクリート:152.0m
 

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469号(2013年04月01日)