CFT構造による開放感ある輸入車ショウルーム

株式会社ヤナセ新社屋

東京本店 工事事務所 大本 一城
/ 建築設計部 福井 太

 

はじめに

平成24年12月、株式会社ヤナセの新本社社屋が東京都港区芝浦1丁目にオープンしました(写真-1)。同地にはショウルーム、整備工場などの営業拠点の他に本社社屋があり、西側の旧海岸通り、南東側の芝浦運河に挟まれた立地で、ランドマークとして親しまれてきました。しかし、その建物も老朽化が進んだことから今回の建て替え計画となりました。
工事中もショウルームや本社は営業を継続するため、敷地を南北に2分割の上、北側敷地の既存社屋に移り、南側敷地の社屋を解体して新築工事を行いました。今後、北側敷地の社屋も解体され再開発が行なわれる予定です。
ここでは、新社屋の特徴および適用技術などについて紹介します。

 

 

解体工事と地盤改良

南側敷地での解体工事は、平成23年5月から同年9月にかけて行なわれました。隣地で営業を続けながらの解体工事であるため、音や埃、振動などでお客様に御迷惑をかけないよう細心の注意を払いながら進めました。
解体工事完了後、新築工事に先立ち地盤改良工事を行いました。一昨年3月の東北地方太平洋沖地震時に千葉県浦安市などで液状化が発生して大きな問題となりましたが、当工事では当社保有技術である‘Geo-KONG工法’を採用し対策を施しています。

 

 

新社屋の特徴

1)配置・平面計画
建物用途は、ショウルーム、整備工場、事務所および駐車場で、輸入車ディーラーに求められる業務要素が集約された建物となっています。また、既存敷地を分割して建て替えを行うため、旧社屋が多数の低層建物が隣立していたのに対し、新社屋は1棟に集約した7階建てになりました。高層化されても使い勝手が変わらないようにとの配慮から、多用途の各階を結びつけるショッピングセンターのような自走式の車両用スロープ、また、サブ導線としてカーリフト1台を設置しています(図-1、写真-2)。

2)外装デザイン
旧海岸通りに面してメルセデスベンツとアウディのショウルームが配置される関係上、低層部は両ブランドのCI(コーポレートアイデンティティ)に沿ったデザインとなっています。高層部は輸入車ディーラーという業態を表現するため、ガラスやメタルで構成する横ライン強調のシンプルな外観としています(写真-3)。
[低層部] 角波ガルバリウム鋼板横貼り、アルミハニカムパネル
[高層部] 押出成形セメント板(メタリック焼付塗装)
[芝浦運河側]ALC板+吹付タイル
         角波ガルバリウム鋼板縦貼り
また、将来の運河遊歩道の整備計画を見越して、植栽配置の工夫や外壁に壁面緑化を施し、運河からの景観にも配慮しています(写真-4)。

 
3)内装デザイン
建物内部に目を向けると、馴れ親しんできた伝統ある旧社屋のデザイン要素(光天井や大理石、木目パネル)をヤナセ本社受付に引き継ぐとともに、既存建物に使われていた建材(石材)を一部再利用しています(写真-5)。

 

主な適用技術

1)無耐火被覆CFT柱
開放的なショウルームの確保や整備工場・車両置場階の柱をスリム化するために無耐火被覆のCFT柱を採用し、耐震性と経済性の両立を図りました(図-2、写真-6)。
なお、第三者評価機関(都市居住評価センター)で耐火設計の性能評価を受け、国土交通大臣認定を取得しています。
当工事で無耐火被覆CFT柱を採用したことによるメリットとして、以下が挙げられます。
●耐火被覆材がないため、柱の仕上げ寸法が細くなる
●防水が必要な階の柱コンクリート根巻きが簡略化できる
●上記に伴い、整備工場・車両置場の車両1台当たりの床面積が約3.75%削減できる
なお、採用に当たっては、大臣認定取得期間を設計工程にプラスすることや、設計変更への対応が難しいことを考慮する必要があります。また、建物用途もある程度限定されることから、建築主の理解が得られて初めて成り立つ技術と言えます。

2)浮床工法
ショウルームの直上階に整備工場などの施設を配置している関係上(図-3)、下階への音や振動の伝搬を少なくするために浮床工法を採用しています。浮床材は、遮音・防振性能に優れているだけでなく、整備工場床の水洗いをするため、耐油・耐水性があり、さらに車両通行や整備機械を設置するため、長期荷重による耐クリープ性にも優れた材料を選定しています(図-4)。
音・振動データの測定・分析を今後予定していますが、竣工前に実施した整備工場での模擬作業による下階での音・振動をチェックしたところ、僅かに聞こえる程度まで低減されていて、効果を体感することができました。
3)省エネ対策
複合用途ビルであることを考慮し、効果の見込める以下の省エネ対策を採用しています。
●全館LED照明導入
●人感センサー、昼光利用による照明消費エネルギーの削減
●太陽光パネル設置(写真-7)
●節水型衛生器具
●事務所Low-E複層ガラスの採用、屋上苔マット緑化による 熱負荷の軽減

 

おわりに

開設以来、半世紀にわたり成長、発展を支えてきた旧社屋と同様に、この新社屋がまもなく創業100周年を迎えられる株式会社ヤナセ様の、次の100年の歴史を刻んでいく礎となるように願っています。

 

工事概要
工事名称 株式会社ヤナセ新社屋新築工事
工事場所 東京都港区芝浦1丁目6番38号
発注 (株)ヤナセ
設計・監理 (株)鴻池組
施工 (株)鴻池組
工期

(解体工事)平成23年5月~平成23年9月

(新築工事)平成23年10月~平成24年10月末

工事概要 鉄骨造(柱CFT構造)  地上7階、棟屋1階
建築面積  5,427.51m2
延床面積 23,975.60m2

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468号(2013年01月01日)