家具の転倒等に対する免震効果の検証

地震時の室内状況再現実験

免震効果検証WG/技術研究所
藤井 睦

はじめに

免震構法を建物に適用すると地震時に躯体変形を小さくできるので、柱や梁など躯体の損傷を防げることはよく知られています。もう一つの特徴として、免震構法では地震時の絶対応答加速度、すなわち各階での揺れの激しさを大きく減らせるので、家具など什器類の移動や転倒による危険を小さくできることが挙げられます。什器類の安定は、人命だけでなく、財産の保全や事業継続にも関わる重要な地震対策と言えます。
什器類の地震時挙動を予測することは、すでにある程度可能となっていますが、什器は多種多様であり、地震動にもさまざまなタイプがあります。今回、実際の什器を配置した部屋を作り、想定される地震時の応答を振動台で与えて室内状況や什器類の挙動を実験的に調べました。

実験概要

実験では、部屋模型にさまざまな家具をセットして地震時の室内状況を再現する「部屋実験」と、什器単体での挙動を調べる「要素実験」をそれぞれ行いました。
部屋実験では、間口4m×奥行3mの部屋模型1室を振動台上に設け、市販実物の什器などを配置して試験体としました。集合住宅を模した部屋には、フローリング床に食卓、本棚やTV、日用品類を、事務所を模した部屋にはカーペット床にデスク、ロッカーやパソコン、事務用品を配置しました。入力波には18階建てRC造集合住宅(免震,非免震)、8階建てS造事務所(制振、非制振)の建物モデルでの時刻歴応答解析に基づく床応答を用いました。解析用の入力地震動には、内陸型地震動として兵庫県南部地震時のJMA神戸波と海洋型遠距離地震動として継続時間の長い東北地方太平洋沖地震での筑波波(当社技術研究所観測記録)を用いました(写真-1、表-1)。

要素実験では、市販のカラーボックスを連結して試験体とし、その高さ幅比、床仕上げ、入力波の種類・強さを変えて加振し、すべり量やロッキング量を調べました。この実験では、転倒や移動での上下動の影響を見るため、水平動と上下動の同時加振も行い、合計で約1400ケースとなる多数のデータを取得しました(写真-2、表-2)。

実験結果

部屋実験での家具の転倒状況は、写真からも明らかなように、免震と非免震の相違が顕著でした。制振では、免震ほど顕著ではありませんが、非制振に比べるとがたつきや移動が少なくなるという結果でした(写真-3、写真-4)。

写真-3 〈免震・非免震〉最大応答時(神戸波、集合住宅)

写真-4 〈制振・非制振〉最大応答時(筑波波、事務所)

また、パルス的な入力に対応する数秒間だけの揺れが顕著な神戸波では、電車が走り出す時のように、同じ方向に一気に転倒・落下が生じます(準静的モードの転倒)が、強い揺れが何度か繰り返す筑波波では家具の揺れの成長と不規則な床応答とが組み合わされて徐々に転倒が生じ(ロッキングモードの転倒)ました。いわゆる内陸直下型と呼ばれる地震動と海洋型遠距離地震動の違いが家具の挙動にも現れることがわかります(写真-5)。

おわりに

免震構法の加速度低減効果が躯体の損傷防止だけでなく、室内什器の転倒防止にも有効であることが実験的にも確認できました。また、制振構法についても揺れが抑えられ、室内の安全が高まることが確認できました。得られた試験データは、動画記録を含め、屋内被害予測方法の検証やお客様への技術情報として活用したいと考えています。

比較映像

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467号(2012年10月01日)