岐阜県最大の前方後円墳 往時の姿に復元

昼飯大塚古墳保存整備工事

名古屋支店 工事事務所 原田 建志
/ 技術研究所 髙松 誠

 

はじめに

史跡昼飯大塚古墳(ひるいおおつかこふん)は、今から約1600年前の4世紀末に築かれた岐阜県最大の前方後円墳です。平成12年度(2000年)には国の史跡に指定され、平成21年度(2009年)より4カ年計画の保存整備事業が開始されました。3年目にあたる23年度工事では、古墳の後円部斜面に、現地から出土した葺石を往時の姿に復元する工事が行われました。この葺石の復元にあたりいくつかの施工上の課題がありました。

まず、葺石が復元される後円部はかなりの急勾配斜面であるため、当初計画の施工法では葺石を固定するのに充分な強度が得られるか危惧されました。また、長い間土中に埋もれていた葺石をそのまま利用するため、既に内部まで劣化が進んでいる石材は、これから先の環境変化によりさらに風化が進み、貴重な文化遺産が失われてしまうことが懸念されました。本号では、葺石の施工に使用した間詰め土の改良と、葺石の風化を抑制し、長期的に状態を維持するための風化抑制対策について紹介します(写真-1~3)。

 

葺石間詰め土の改良

葺石に使用される貼付・間詰め土は、当初の計画では古墳の盛土材と同じ石灰系改良土を使用することとなっていました。葺石の施工では重機が使用できず、人による手作業となるため、葺石を固定するのに充分な締固めを行なうことが困難となります。また、葺石復元個所は急勾配斜面のため、充分な固定強度が得られていない場合、最近増えている集中豪雨などに見舞われると、復元された葺石が滑落することも心配されました。

そのため、葺石の間詰め土に使用する石灰系改良土には、特殊樹脂エマルジョンを配合した改良土を提案しました。当社の技術研究所において室内検証実験により強度特性を確認し、現地試験施工では「昼飯大塚古墳保存整備委員会」の整備委員の施工指導を仰ぎ、最適な仕様を確立して本工事に適用しました(写真-4~8)。

 

葺石の風化抑制対策

昼飯大塚古墳より出土した葺石は、10種類にも及ぶ多種類の石材(大半は砂岩)が使用されています。復元された葺石は、日射や風雨に直接さらされるため、乾湿の繰り返しや冬期には凍結融解による劣化要因が考えられます。特に、気候的に当地の濃尾平野は変化が著しく、夏は高温多湿で非常に蒸し暑く、冬は西に位置する伊吹山から吹き込む冷たい風“伊吹おろし”の影響で、北日本並みに寒い日や局地的な大雪に見舞われる日もあります。

これまで同じように風化の問題を抱える多くの石造遺跡では、樹脂処理による風化抑制対策が行なわれています。昼飯大塚古墳の葺石においても、長期的に維持させるための必須条件として採用されました。そこで、これまでに当社が携わってきた遺跡保存工事(ET454号・2009-7-1「国史跡武蔵府中熊野神社古墳の復元」ほか)により培われた保有技術をもとに、事前に検証実験を行い、最適な樹脂処理仕様を選定し、葺石の風化抑制のためのはっ水処理を行いました
(写真-9~10)。

 

おわりに

史跡昼飯大塚古墳は、東海地方の古墳時代における政治、社会を語るうえで重要な古墳の一つです。地域に残る貴重な歴史的文化遺産として、大切に保存し後世に継承していくことが最も大事なことだと考えます。これからも、古来より継承された伝統的な技術と現代の技術を融合させ、先人が残してきた貴重な文化遺産の保存に貢献していきたいと思います。

 

工事概要
工事名称 (補)昼飯大塚古墳保存整備工事
工事場所 岐阜県大垣市昼飯町地内
発注 岐阜県大垣市
工事監理 大垣市都市計画部都市施設課
施工 (株)鴻池組
工期 平成23年8月1日~平成24年3月5日 
構造・規模 造成面積    800m
土工 修復盛土工  630m
擁壁 重力式擁壁  36.7m
修復切土    1200m
L型擁壁     20m
葺石      270m
境界ブロック    53.6m
埴輪工     1式
階段工     1式
管渠工     346m
管理便益施設工 1式

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466号(2012年07月01日)