Y社研修所耐震補強

アウトフレーム連結制振構法

東京本店 建築設計部
太田 崇士

はじめに

アウトフレーム連結制振構法は、建物外部から耐震補強を行う新しい構法です。本構法では、建物外部に新設するアウトフレームと既存建物をダンパーで連結し、ダンパーに地震エネルギーの大半を吸収させ、大地震時における建物の損傷を軽減させます。本構法は、京都大学都市環境工学専攻竹脇・辻研究室と共同で 開発しました(ET412号参照)。本構法の主な特長は以下の4点です。

今回紹介する「Y社研修所耐震補強工事」は、本構法の最初の適用物件です。

建物概要

Y社研修所は、地上4階建のRC造建物で、1970年に竣工した旧基準※1の建物です。耐震診断(2次診断)を実施したところ、1階から3階のIs値※2が基準値である0.6を下回り、既存不適格と診断されました(図-2)。
立地条件は、図-1の伏図において、(13)通りは大きな池に、(7)通りおよびA通りは植栽に面しています。また、C通り側は数mの平地の先が急斜面になっています。

補強概要

設計条件として、建物内部での作業を極力減らし、基本的には建物外部から補強することを発注者から要求されました。そこで、敷地条件・建物規模および形状・コストを考慮し、以下の方針に基づき、図-1に示す補強計画を立案しました。

補強方針

・ 桁行方向:アウトフレーム連結制振構法
 捩れ等の検討を実施し、補強効果を把握した上で、C通り側からの補強のみで対応することにしました。

・ 梁間方向:RC耐震壁の増設
 壁厚の増加や、乾式間仕切りを耐震壁に変更するなど、室内空間のイメージが極力変化しないように配慮しました。

補強効果

本構法により補強することで、0.6を下回っていたIs値が大幅に上昇し、耐震性の高い建物に生まれ変わりました(図-2)。
また、大地震時(レベル2相当)における挙動を数値解析によってシミュレーションし、補強後の建物は補強前に比べて応答変形が大幅に抑制され、損傷が大幅に軽減されることを確認しています(図-3)。

おわりに

当社では、顧客ニーズに応え、建物外部からの補強が可能であり、信頼性の高い補強効果が期待できる本構法を、学校・病院・庁舎の耐震補強工事を中心に今後も展開していく予定です。

※1  旧基準: 
1981年に建築基準法が改正し、改正後の設計法は一般に「新耐震設計法」と呼ばれる。「旧基準」とは、新耐震設計法に対する呼称であり、改正前の設計法を指す。

※2  Is値:
耐震診断において、建物の耐震安全性を略算的に数値化した指標であり、数値が大きいほど、耐震安全性が高いとされている。2次診断では0.6を基準に判断することが一般的であり、建物重要度や発注者要望に応じて、基準を高く設定することもある。
 

工事・建物概要
工事名称 Y社研修所耐震補強工事
竣工年度 1970年(昭和45年)
所在地 栃木県栃木市
用途 研修所・宿舎
工期 平成17年7月~平成17年12月
構造・規模 地上4階、鉄筋コンクリート造
架構形式:  桁行方向 ラーメン構造
        張間方向 耐震壁付ラーメン構造
基礎形式:  杭基礎(既成杭φ350φ)
使用材料:  コンクリートFc21
建築面積 688.7m2、延床面積 2226.5m2、軒高13.3m 

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429号(2007年04月01日)