防災拠点となる免震庁舎

川越町新庁舎

名古屋支店 工事事務所
宇波 時彦 / 篠田 正

はじめに

川越町は三重県北部に位置し、四日市市と桑名市に隣接し伊勢湾に臨んでいます。地形上鈴鹿山系からの河川にて形成された扇状地の海岸線近くにあり地盤液状化の恐れのある地域で、さらに、過去の大規模な風水害を受けた歴史があります。このため、新庁舎は地震時には防災拠点として活動できるよう、建物機能を維持する目的で免震構造が採用されています。また、水害対策も考慮して1階は駐車場や町民ホールとし、2階以上に執務室、議場、備蓄倉庫などが配置され、屋上には太陽光発電設備を備えています(写真-1)。

液状化対策と高耐力杭

建設地の地盤は地下水で飽和された緩い砂地盤で形成されており液状化の恐れがあるため、水平加速度500galにて液状化しないよう、深さ12mまで液状化対策を行います。建設地は民家が接近しているので、無振動で低騒音の静的締固め砂杭工法が用いられます。この工法は、直径70cmの砂杭を両方向とも間隔1.9m、深さ12mまで構築するもので、ケーシングを回転させながらエアーを噴出して所定深度まで圧入し、先端から砂を排出し重機自重により締固めながらケーシングを引き抜きます(写真-2)。
次に、建物を支える杭は高支持力が期待できる既成コンクリートパイルと、耐震性を確保するSC杭の組み合せになっています。杭はコンクリート強度Fc105N/mm2、支持層は深さ36m以深の砂礫層、総本数は148本、杭長は33~36m、上杭と中杭の杭径は400~800mm、下杭は400~950mmに拡底され、上杭は鋼管コンクリート杭となっています。杭工法はプレボーリング拡大根固め工法で、掘削攪拌により所定深度まで泥土化し、支持層深度付近で拡大掘削による根固め球根を築造したあと、杭を所定深度まで建て込む大臣認定工法です。3本の杭の継手は嵌合方式の無溶接継手で、3枚の接続プレートと接続ボルトを用い、トルクレンチで所定のトルク値で締め付けて完了します(写真-3)。

プレキャスト部材とプレストレス

架構計画は、桁行方向6m間隔、張間方向10.9mから17mのロングスパンのラーメン構造で、両方向ともプレストレストコンクリート構造です。柱壁は現場打RC造、梁およびスラブはハーフPCa造です。施工順序は、(1)柱壁の構築、(2)ハーフPCa大梁の建て方、(3)ハーフPCa床版の設置、(4)トッピングコンクリート打設、(5)プレストレス導入の順になります。ハーフPCa大梁は、製造工場で1次緊張力を導入して運搬されるため、建て方時の支保工は原則として不要です。2次緊張は梁トッピングコンクリートの強度発現後プレストレスを導入し、続いてシース管にグラウトを注入して完了します(写真-4)。
ハーフPCa床版はT型断面をしたPCa版で、シングルとダブルの2種類があります。長さ6~17m、版厚325~800mm、プレテンション方式で工場製作されます(写真-5)。

免震装置

免震装置は、鉛プラグ入り積層ゴム、弾性すべり支承、十字型直動転がり支承、オイルダンパーの4種類で構成され、装置総数94基にて建物を支えています(図-1)。
鉛プラグ入り積層ゴムは径700mm、750mm、800mmのものが58基配置され、建物重量を支えつつ水平変形に耐え減衰性能を発揮します。
弾性すべり支承は、軸力の小さい基礎に径500mmのものが13基配置されています。十字型直動転がり支承は、ガイドレールとボールベアリングで任意方 向に転がるよう十字に組み立てられた装置で、引抜力が発生する基礎に11基配置されています。オイルダンパーは、最大減衰力1000KNのものが12基配置されています(写真-6)。
アンカーボルトは基礎梁に定着する仕様で、ボルト長さは通常より長く高い取付精度を要求されておりアンカーフレームでボルトを固定しています。

おわりに

当建物の上部構造はプレキャスト・プレストレストコンクリート構造であり、パネルゾーンに柱梁主筋、PC鋼線および定着具が配置されます。従って、PCa大梁建て方までにパネルゾーンの納まりや大梁の建て方順序を十分検討しておくことが大切です(写真-7)。

工事概要
工事名称 川越町新庁舎建築工事
工事場所 三重県三重郡川越町大字豊田一色字前浪280番地
発注 川越町
設計・監理 (株)日本設計
施工 (株)鴻池組
工期 平成17年6月~平成19年1月
構造・規模 上部構造 プレストレストコンクリート造
下部構造 免震構造
地上4階  塔屋1階
       建築面積  3780.18m2
       延床面積  9534.47m2
別途工事 給排水衛生空調設備工事・電気設備工事

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428号(2007年03月01日)