大断面ニューマチックケーソンの施工

大日南調節池

大阪本店 工事事務所
石井 寿典

はじめに

寝屋川流域の特徴として、河口から生駒山麓付近までの約20kmが感潮河川であり、1/12,500の非常に緩やかな河床勾配となっています。また、流域の4分の3を占める内水域では降った雨が直接河川に流れ込むことができないため、これまで幾度となく水害による被害を受けてきました。
本工事はその寝屋川総合治水対策として守口市北東部の浸水常襲地域の被害軽減を図ることを目的とした流域調節池の一つをニューマチックケーソン工法(A=1,081m2)で築造するものです(図-1)。建設地は旧三洋電機淀川工場跡地の大規模開発区域のほぼ中央に位置しており、ショッピングセンター、超高層マンション等の開発工事と同時施工となりました(写真-1)。本号では市街地におけるニューマチックケーソン工法の施工概要を紹介します。

ニューマチックケーソン工法の特徴と施工概要

ニューマチックケーソン工法は、底部に設けた作業室(掘削排土作業を行う空間)にその深度における間隙水圧と同圧力の圧縮空気を送り込み、地下水の浸入を防ぎながら掘削を行うものです。そのため、作業気圧が高い場合、減圧症(潜水病)発症の心配がありましたが、近年、掘削・排土作業の無人化・自動化や酸素減圧、ヘリウム混合ガスが実用化されたことで安全性が確保されています(写真-2、3、4)。
特徴として、送気設備、掘削設備、排土設備などの諸設備が必要ですが比較的必要施工ヤードが少なくてよく、通常、昼夜間で施工するため工期が短くてすみます。また、地山を目視しながら掘削作業を行うため、作業気圧のコントロールを十分行えば比較的地盤を傷めることなく施工できるため、近接施工にも対応しやすい工法です(図-2)。
今回の施工では、ケーソンの沈設深度がGL-45.2mと深いことから、作業気圧0.18MPa以降からは地上遠隔操作による無人掘削を採用し、0.20MPaからは酸素減圧を行うことで減圧症発症防止を図ることにしました。
地層は、GL-10.0mまではN値20程度の砂質土、GL-20.0mまではN値10以下の非常に軟弱な沖積粘土層が続いています。以降洪積層に入り礫質土、砂質土が続き最終深度付近では砂質土と粘土の互層になっていました。
沈設当初は、躯体重量が11,800tと非常に大きいことと軟弱層があることから過荷重状態での沈設が続いたため、刃口の掘残し量を調節しながら慎重に沈設していきました。第5沈下および第7沈下以降は、躯体重量(沈下荷重)が総沈下抵抗力(揚圧力+周面摩擦力)を下回るため、中詰めコンクリートおよびケーソン内への湛水で重量を調節し、安定した沈設ができました(図-3)。

市街地における施工条件への対応

近隣の開発工事との工程調整から使用できる施工ヤードが時期に応じ刻々と縮小されるため、綿密な施工計画と工期短縮が重要課題でした。また、市街地での圧気工事であったため、漏気防止対策を万全なものとするよう下記の対応をしながら施工を行いました。

(1)作業時間の変更

当初、昼・夜2交代の施工で考えていましたが、施工ヤードの一部引き渡しへの工期確保および構築・掘削沈下作業の分離による安全確保の観点から3交代24 時間作業で対応しました。掘削沈下作業を夜間行うため、振動・騒音対策としてマテリアルロックからの排気音低減のための高気圧対応型ロックマフラー、ワイヤーボックスからの漏気音低減のためのワイヤーボックス消音装置を装着しました。消音装置装着後は60dB程度の騒音に抑えることができ、10カ月にわたる夜間作業において、近隣からの苦情もなく完了することができました。

(2)50tラフテレーンクレーンの使用

通常ニューマチックケーソン工事ではブームのたわみが少なく、安定度の高いクローラクレーンを使用して排土作業を行いますが、当工事においては昼間の構築作業での作業スペースを確保するため、50tラフテレーンクレーンを夜間に回送し掘削沈下作業に使用しました。
使用に当ってはワイヤーの巻き替え等多少の改造が必要なこと、オペレータに経験者がなく、操作に慣れが必要でしたが、作業能率が悪化することなく工期短縮には非常に有効でした。

(3)漏気防止対策

作業室内に高圧空気を送り込んで作業を行うニューマチックケーソン工法の特性上、その空気が刃口より漏出する場合があります。漏出した空気は、周辺地盤の地下水に影響を与え井戸を枯らせたり濁らせたりします。また、酸欠空気や有毒ガスが滞留している地層では、それが周辺の井戸、地下室などから噴出し事故に至る場合があります。
当工事では最大圧気圧が0.37MPaと高いため、漏気回収装置の設置および観測井戸を設置し、状態を監視しながら施工を行いました。
漏気回収装置は、刃口金物上部に取り付けた空気取り入れ口より漏出空気を取り込み、躯体内の配管を通して大気へ放出するもので周辺地盤への拡散防止を目的としています。施工中は、地上部の配管端部より空気の吐出がみられ有効性が確認できました(図-4、写真-7)。
施工においては、作業気圧を間隙水圧よりわずかに低く(水頭差20cm程度)抑え、刃口先端を常に地下水位以下と漏気が起こらないように細心の注意をはらい施工を行いました。

おわりに

着工に当って、さまざまな制約がついた中で、1,000m2以上の大断面ニューマチックケーソンを14カ月で沈設を完了しました。この事例が同種工事の参考になれば幸いです。

工事概要
工事名称 一級河川寝屋川 大日南調節池築造工事(本体工)
工事場所 大阪府守口市大日東町
発注 大阪府寝屋川水系改修工営所
施工 鴻池組 東亜建設工業 国土総合建設共同企業体
工期 平成17年3月~平成20年2月
工事内容

調節池築造工

ニューマチックケーソン工法

(直径φ37.0m 沈設長42.2m 最大圧気圧0.37MPa)

コンクリート  14,992m3

掘削沈下工 有人掘削 23,501m3

無人掘削 22,115m3

内部構築工 コンクリート 3,000m3

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437号(2007年12月01日)