室内音響の改善に関する事例

東京本店 建築設計部
西川嘉雄

室内音響への取り組み

「静けさ・良い音・良い響き」:永田穂著の表題は快適な音環境を表す的確な言葉といえます(表-1)。当社は、快適な音環境を提供できるように設計を行っています。音楽ホールや劇場などは、事前に詳細な検討を行ったり、専門の音響設計事務所が監理したりするため音響的な問題は発生しません。しかし、体育館や集会場など中規模の空間では、残響過多(残響時間が長い状態)やエコーが発生する場合があります。本号では、表-2に示す音響障害の改善対策について事例をあげて紹介します。

最適残響時間

当社の測定実績と文献から求めた最適残響時間と、室容積および室の用途の関係を図-1に示します。残響時間は、話を中心とする部屋は短く、音楽ホールや大空間などは長くなります。

残響過多対策

紹介する事例は図-1に示した三つの建物(白抜きは対策前)で、図-2の対策を行いました。「a体育館」は、壁面に有孔ボードを設置し吸音を増やす対策を 行うことで、残響時間は3.6秒から2.4秒に改善しました。「b体育館」は、天井のボード仕上げにグラスウールボード(以下GWボード)を貼ることで残 響時間は3.4秒から2.7秒になりました。「c集会場」は意匠面から天井クロス仕上げでしたが、岩綿吸音板に変更することで残響時間は2.2秒から 0.7秒に改善しました。このように反射性の仕上げ材料から吸音性の仕上げ材料に変更することで、部屋の用途に合った響きに調整することができます。

フラッタエコー対策

フラッタエコーは、図-3のような平行な反射面や音の集中する形状の場合に発生します。この現象を効果的に利用したのが鳴き龍です。しかし、普通の部屋では音色がついたり、話が聞き取りにくくなったりするためフラッタエコー対策が必要になります。

(1)ドーム型の天井の事例

図-4のドーム型の天井でフラッタエコーが発生していました。この建物は、天井の曲面に特徴があるため、この形状を残しながら対策を行う必要がありました。そこで曲面に沿ってGWボードを貼り、視覚的形状を確保しながら、エコーを消すことができました。

(2)会議室の前後壁間の事例

図-5は会議室の壁間でフラッタエコーの発生した例です。後壁に拡散処理・吸音処理3種類(GWボード10、20、30m2設置)の対策を行い、エコーがなくなったことが確認されました。
聴感上の効果確認のために行った心理実験の結果を図-6に示します。GW20とGW30は聴感的に差がないことから、GW30は過剰な対策であることが 分かります。過度な吸音は音を小さくします。話者は自分の声が小さく聞こえるため、話声を大きくし話し疲れます。つまり、話者の立場では吸音し過ぎるのも 問題です。

音・振動検討支援ツール

当社では、音や振動に関する技術資料を整備した「音・振動検討支援ツール」を2003年に作成し、社内ネットワークで公開しています(図-7)。この中に 室内音響の検討ツールとして、残響時間の予測計算や設計資料集があります(図-8)。設計・施工段階で仕上げ(残響時間)や形状の検討を設計者・現場職員が簡易に行うことで音響に対する意識が高まり、音響障害の防止に効果があがっています。

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437号(2007年12月01日)