床用制振装置で高い居住性能を確保した事務所ビル

NFC丸の内ビル

名古屋支店 工事事務所 山田俊彦
/ 技術研究所 伊藤真二

はじめに

NFC丸の内ビルは名古屋駅と栄との中間に位置し、日銀名古屋支店などオフィスが集中する街に建つ地下1階地上12階の事務所ビルです。中部圏の 経済はリーマンショック後は急降下しており、このような厳しい経済環境下での事務所ビル建設に求められているのは、高い機能性や居住性、広い無柱空間など といった性能と建設コスト抑制の両立です。

本建物は、斜線制限から階高が抑えられたため、ハンチ梁による階高の確保と構造体の軽量化を図り、高いコストパフォーマンスを実現しました。また床用の制振装置(TMD)により、ロングスパン床(梁間方向スパンが18.2m)に懸念される振動障害を回避することを図っています(写真-1、 図-1)。

構造概要

本建物は耐震性と水平剛性確保のために、鋼管柱(600~700mm角)にFc42の高強度コンクリートを充填したCFT構造を採用しています。本構造により同断面の鋼管柱に比べて耐力・じん性を飛躍的に増大でき、鉄骨の合理化が可能です。さらに柱脚には施工性に優れた露出型固定柱脚(NCベース)を用いています。また梁間方向大梁は、端部に鉛直ハンチ(梁せい650~900mm)を設け、中央部で天井高を確保しています。

床用制振装置(TMD)

本装置は同調質量ダンパー(TMD:Tuned Mass Damper)と呼ばれる電力などのエネルギーを必要としないパッシブタイプの制振装置です。TMDの基本的な仕組みは可動マスとバネおよびダンパーで構 成された振動系を床に設置し、床の固有振動数と同調させます。人の歩行などで床が上下方向に揺れるとTMDの可動マスが床より大きく揺れることで振動エネルギーを吸収し、床の揺れを抑えます。本建物では可動マスが1tonの装置を1フロアあたり2台設置し、11フロアに計22台設置しています。

TMDは重量物であるので、鉄骨建て方と同時に取り付けることにしました。事前に工場で本体を受け梁に設置した後、建て方工程に合わせて現場に搬入し本体鉄骨に取り付けました。後施工と比較すると工程がスムーズで、効率よく施工できました(写真-2、3)。

制振効果確認試験

建物竣工直前に現地でTMDの制振効果確認試験を実施しました。試験内容は、試験者1名による床のかかと加振実験と試験者2名による歩行加振実験 です。かかと加振実験は、主に衝撃加振による床振動の減衰状況(振動の収まり方)を評価し、歩行加振実験は、実際の事務所ビルでの人の歩行状況を模擬して当該床の居住性能を評価します。

かかと加振実験では、「TMDなし」の場合、最大加速度13cm/s2の振動が生じ、加振後も数秒間揺れが続いていますが、「TMDあり」の場合、最大加速度が10cm/s2と小さくなって、さらに加振後の揺れが1秒未満で収まっており、TMDの制振効果が発揮されています(図-2)。

歩行加振実験の結果を「建築物の振動に関する居住性能評価指針(2004年、日本建築学会)」によって評価すると、「TMDなし」の場合 はV-90(10人中9人が感じる程度の振動)でしたが、「TMDあり」にすると、V-30(10人中3人が感じる程度の振動)になり、大幅に居住性能が 向上していることが確認できました(図-3)。

※固有振動数:1秒間に振動する回数を振動数と呼び、建物などの構造、規模などで決まる振動数を固有振動数という。鉄骨造事務所ビルの床の場合、5~1 0Hz程度の値となることが多い。

工事概要
工事名称 NFC丸の内ビル新築工事
工事場所 名古屋市中区丸の内一丁目1725,1726,1727番
発注 日東エフシー(株)
設計 (株)国分設計
施工 (株)鴻池組名古屋支店
工期 2008年12月~2010年2月
構造規模

鉄骨造(柱CFT造) 地下1階 地上12階 塔屋1階

延床面積6,254.23m2 建築面積528.71m2

用途 事務所

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457号(2010年04月01日)